叫ぶ彼
今日の帰り、東海道線で。先頭車両にいつも並ぶ。
向かい合う席ではなく、4人がけのフラットな席があるので『俺の中の座りたい予定』を立てやすい。
東京からだと、一番前に並べれば意外と座れることも多い。上野で降りる人が多いのかな。まあほとんど一番前には並べず、横浜から座れれば御の字なんだけど。打率5割くらい。
で、今日も4~5人目くらいに並んで、まあ座れないよね、と並んでた。
電車が来て、案の定、席は俺が入る前に埋まった。
横浜で空くといいなと思いながら席の前に立っていると、突然、右端の男性が
「アァァァアアァァ!!アアァァァアアア!!」と叫んだ。
その後、ペッ、ペッとツバを吐くような音。マスクをしているので何かを出しているのが見えるわけではないんだが、気になるっちゃ気になる。
その後も断続的に男性は叫び、横に座っていた女性は立って何処かに行ってしまった。
まあしょうがないよね。確かに怖く感じるかも。特に女性は。
俺は席が空いたからラッキーくらいな軽い感じで、男性の横に座った。
そこから横浜で降りるまで、男性は断続的に叫び、何かを吐く音を出し続けた。
叫ぶたびに身体がビクッ、ビクッと痙攣していた。
それを除けば、彼は全く迷惑行為はしなかった。足を広げるわけでもなく、暴れるわけでもなく。
と言っても、叫ぶだけで十分、人によっては「暴れている」とも受け取れるわな。
でもそこはさすが東京砂漠、誰も意に介さず、見て見ぬふりだ。直接的な行為は誰も受けてないからね。目の前のOLのねーちゃんたちなんか、まるでその存在が見えないかのように、叫び声の中、世間話を続けていた。
自閉症かな。
特に保護者的な人も見当たらない中、どのような対応が一番正しいか、正直良くわからなかった。
ただ別に直接的な被害を受けているわけでもないので、俺も何も起きてないかのごとく振る舞った。
それでよかったのか、ぶっちゃけ今よくわからない。
正直、いつ降りるかな、とも考えてたし。
なにかの小説で、どうしても周りの音に耐えられずに叫んでしまう自閉症の子の話を読んでいたので、それかな、と思い、叫び声以外の実害がなければ問題ないや、とも考えてた。
同時に、確実に成人している、それなりにパワーを持った男性が、声だけではなく行動を起こし始めたら俺はどうすればいいんだろう、とも考えてた。
まだ、わからないことばかりだ。知識も経験もないよ。
叫びの合間に、髪の毛を整える仕草を普通にしていた、そんなことが印象的だった。
多分、叫び自体が、彼にとっては髪の毛を整えることと同じくらいの仕草なのかな。
もしくは叫ばなくては我慢できないくらい、彼だって出来れば叫びたくなんてない、そんなとても繊細な感性の持ち主なのか。
わからない。