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ぺっぺけぺの雑記

くそったれプログラマの素晴らしきくそったれ



ほしいものリスト

15歳で死んだ女の子は、天使になれるのか

風邪引いた。喉やべえ。このまま引っ越しとか色々やべえと思って、医者に行った。

 

会社の近くに、朝9時に受付開始、9時半から診療開始の医者があったのでそこへ。

9時1分くらいに着くように行くと、50代なかばと思われるおっちゃんがドアの前で立っていた。

 

「まだ開いてないみたいですよ」

 

おっちゃん、ニカッと笑っておっしゃった。

前歯が2本ほど行方不明だった。

 

「そうみたいですね。もうすぐ開きますかね」

 

「さっきドア動かしたけどね、鍵かかってんだね、開いて無いんですよ。風邪ですか?俺は健康診断に来たんですけどね」

 

おっちゃん、またニカッと笑った。

 

「ああ、ごめんなさい、診療の方ですか?」

 

すぐに看護師らしい女性が来て、鍵を開けた。おっちゃんが応える。

 

「いや、健康診断にきたんですけど」

「健診ですね。受付は9時からで、健診は半からになります」

「ええっ?9時から健診できないの?」

「ええ、9時半からなんですよ」

 

女性はスッと受付の方へ入り、すぐに健診受付の用紙をおっちゃんに差し出した。

 

「これに記入をお願いします。ここと、あ、ここも書けますか?」

「あ、はい、大丈夫です。半からか、まいったな、んー」

 

誰にともなく愚痴りながら記入するおっちゃん。

 

おっちゃんの記入が終わって、同じ用紙を渡された俺は

自分は風邪で来た旨を伝え、別の用紙に症状を記入する。

 

「じゃ、9時半からですのでお待ち下さい」

 

6畳位の狭いスペースに長椅子がおいてある。

おっちゃんは既に長椅子に座って、遅れちまうなあ、あんちくしょう、などとブツブツ言っている。

 

ちょっと面倒な人かな、と思い、長椅子の、おっちゃんからなるべく遠いところに俺は座った。スマホでもいじくって時間を潰そうと思っていた。

しかしおっちゃん、俺が座ると間髪入れずに話しかけてきた。

 

「まいっちゃうね、9時半からだそうですよ」

「そうみたいですね」

「9時から開いてますよ、なんて聞いてたんだけど、俺このあと仕事仕事に遅れちゃうよ、まいるよね」

「それは困りますね」

「いやあ、言ったのはうちの事務方だから。事務方に文句いってやるから。医者は悪くないからね」

 

う~ん、まいったな、話する気なかったんだけど。

400万超えてる2048+を少しでも進めちゃおうと思ったんだけどなあ。

まあいいか、さっきから愚痴言ってる風だけど、医者に対してでもなく、筋の通らないクレーマーではなさそうだし。

 

「兄さんは風邪できたんですか」

 

おっちゃんはときどき敬語になりながら俺に話し続けた。

 

「ええ、会社中、ゲホゲホ言ってて。うつされました」

「そうかー、俺はいっつもね、シャワー浴びるでしょ、そのときに口の中にもが~ってやって、思いっきりうがいするんですよ。これいいよ。それでぜんぜん風邪ひかないの。もう10年ひいてないですもん。ほら、俺あたまがコレだからさ」

「いやいや、私もあたまはコレですよ」

「いやーははは、いいよ、シャワーのときのうがい。ぜひやってみてよ」

「はい、やってみます」

「おれ重機の仕事してるんだけどさ、お兄さんは何の仕事?」

 

おっちゃんの話は止まらない。

 

「私はコレ(キーボード叩くマネ)です、コンピューター関係、SE……プログラマー、ですか」

「なるほどー。おれなんかずっと重機乗ってるんだけどさ」

 

おっちゃんはよく話す。こちらの話は一応くらいに受け止めて、9割自分の話。

仕事相手でもこういう人は多いので、嫌いじゃない。

 

「でね、この前熊本いってきたんだけど、アレはひどいね、もう行きたくないよ。ぜんぜん道なんて無いんだよ。瓦礫だらけ。こう、重機で少しずつ道を作っていかなきゃいけないんだもん。そうしないと何もできないんだもんなあ。あれはまだかかるよ。あと数年は」

 

なるほど、そういう場所での仕事もする人なんだな。

 

「それに比べてね、福島はずっと早いよ。福島にも行ったんですけどね、こういっちゃなんだけど、ほら、津波でどどーっと全部こまかいものは持って行かれたでしょ。きれいなもんでしたよ。内陸側はまた違いますけどね。それに比べて熊本は、そのまんまでしょ。もう細かいものだらけで道路がないんだもの。道路作りながらなの。しかも関東と関西でやり方が違う。もう行きたくねえなあ」

 

おお、福島も行ったんだ。

 

「別に関西のやり方が悪いんじゃなくて、違うってだけでね。大まかには同じ、だけど細かいところが違うんですよ。わかりやすく言えばすき焼きの違い、うどんの違いみたいなもんだな。ほら、関東都関西で違うでしょ。『すき焼きはそうじゃない!』なんて言われてさ。そんな違い。資材も、関東じゃ用意してくれるものが関西では自分持ちになったりしするんですよ。◯◯グリースとかね、たかが数百円のものでも数ヶ月からですから、数十個単位で使うわけですよ。それ全部持ち出し、とかね。金の出所も違うみたいでね。福島はやっぱり、原発のせいかなあ。金だすんだよね。しかも福島は漁師の人とか、農家かな、仕事を奪われた人が手伝ってくれんだよね。熊本はぜんぜん。人も金もでない。で、熊本は食べるものも合わないの。馬肉とか鶏肉とか、俺ダメなんだ。しかも野菜はないし。福島のほうがよほどやりやすかったなあ」

 

へえ、そんなに違うもんなんだ。

でも食うものはしょうがないよね、個人の好みもあるし。

 

「俺もこんなぶら下げてさ、数値見ながら。もう福島はほとんど大丈夫だね。東京のほうが数値高いんですよ(多分、放射線のこと)。でね、福島もそうだけど、そういう現場って、やっぱり出るんだ。みちゃうんだよね。死体を。ぜんぜん怖くなんか無いもんですよ。こう、瓦礫を持ち上げると、あ、いた、って感じで。腕なんかこんな曲がってたり、顔が半分なかったりしてね。(拝む仕草で)辛かったでしょう、冷たかったでしょう、ってね。かわいそうなもんだよ。阪神淡路のときも行ったんだけどね、そんときは免許取りたてで、死体を傷つけちゃいけない、そーっとそーっと、なんてやってたけど、今じゃ頭張ってさ、ザってさ。年季ってわけじゃないですけどね。ははは」

 

おう、いきなり重い話題だ……

 

「でね、これ言っていいんだか……(少し悩んで)、色々あるんだよねやっぱり。テレビじゃ言わないですけどね。色々見たよ。暴れたりね。最初は警察もいないでしょう。被災者の方が。ボランティアの人が出した食事に『こんなもの食えねーや!』って暴れたりとか。性欲も溜まるでしょう。ボランティアの女子大生が襲われたりとか。被災者Aさんの家のものを被災者Bさんが盗んだりとか。テレビじゃ言わないけど、やっぱり色々あるよ。少しするとさ、やっと警察や自衛隊が来て、落ち着いてくるんですけどね。もうナンバーとかマーク見るだけでわかるもん。アレ警視庁だ、アレ◯◯県警だ、ってね」

 

確かに、そういうことは報道でみた憶えはない。

外の人が自警団を作って乗り込む、なんて話をWebで見て、なに馬鹿なこと言ってんだ、って思ったりもしたけど、じゃあどうすればいいかなんてわからないし、状況的に難しすぎる……

 

「死体もさ、眠ってるみたいに死んでるんだよ。『起きてよ』って顔叩きたくなったよ。15歳くらいかなあ。女の子でさ、きれいな顔してるんですよ。瓦礫の下から出てきてさ。あんときは県警の人と3人、泣いたよ。あれは辛かったですよ。夢も未来もあってさ、あるはずなのにさ。『ほら、起きなさいよ朝だよ』って。

 あれは今でもトラウマ。トラウマになりますよ。『バージンのままで死んだから、きっと天使になれるね』なんて言い合ってさ。トラウマだよ。他にもさ……」

 

このあと、被災地の話や資格の話などをし、おっちゃんは健診に呼ばれ、じゃ、なんて言って検査室に去っていった。俺も程なく呼ばれ、診察を受けた。診察はすぐに終わった。ただの風邪だった。おっちゃんはまだ健診中のようだった。

 

 

おっちゃんの女の子の話が、やけに心に残った。

よくマンガや映画とかで見る、若い子が戦火でなくなったりするシーン。

そんな場面にリアルで遭遇したことがない俺にとっては、物語のスパイスとしてのみしか受け取れないけど、ほぼ同じような体験をしてしまったおっちゃんにとっては、限りなく現実として映る、そう考えるととても形容しがたい心苦しさを感じた。

 

『バージンのままで死んだから、きっと天使になれるね』

 

大の男が3人で泣きながら言い合った、ある種、不謹慎とも取れなくもない言葉。

逆にそんなことでも言わないと耐えられない、乗り越えられない状況。

そういう場面だったのだろうと考えると、胸にせまる何かがあった。

 

なんか不思議な出会いだった。

お互い、名前も知らないけれど。持っていれば名刺交換したかったくらいだ。

 

印象的だったのは、おっちゃんは、誰を非難するわけでもなく、何かを貶めるわけでもなく、ただ話し続けた、ということ。

 

くどいので上には書かなかったが、関西の事を言うときも、

『悪いとかそういうわけじゃなく、ただ違うんですよ』

と、くりかえし言っていた。

 

いろいろな現場に行ってそうだったから、いろいろな場所の人とうまくやるためのコツとして自然と身についたものなのかもしれない。俺が関西以西出身だったら、という気遣いなのかもしれない。ただ話したかったのかもしれない。

 

今のタイミングでこういう人に会うこと自体、不思議な出会いだった。